損益通算とは
損益通算は、株式や投資信託の譲渡所得などの所得について、同一年の利益と損失を相殺できる制度です。
投資で得た利益には、原則として所得税と住民税(合計20.315%)がかかりますが、「損益通算」をすることで、実質的な利益(利益額から損失額を差し引いた残りの金額)にのみ課税されるため、投資家の税負担を軽減できる可能性があります。
具体的な例で見てみましょう。
【ケース】
・A社株:10万円の利益
・B社株:6万円の損失
・税率は20.315%
<損益通算しない場合>
→ 10万円の利益に対して、約2万円(10万円×20.315%)の税金がかかる
<損益通算した場合>
→ 実質利益4万円に対して、約8,000円(4万円×20.315%)の税金がかかる
この例では、支払う税金に約1万2千円の差が生まれています。
このように、損益通算を活用することで、税金を減らせる可能性があります。
税制上の損益通算では、投資で生じる損益以外にも、不動産所得や事業所得、山林所得等でも適用できますが、本記事では、証券投資をするうえでの損益通算のルールについて解説します。
証券投資で損益通算できる商品と口座
証券投資では、すべての金融商品や口座間で損益通算ができるわけではありません。損益通算の対象となる商品と口座は以下のとおりです。
損益通算できる金融商品
損益通算できる主な金融商品は、以下のとおりです。
非上場株式、私募投資信託、一般公社債、暗号資産は、損益通算の対象外です。
損益通算できる口座
損益通算の対象となる口座は、特定口座(源泉徴収あり・なし)と一般口座です。NISA口座は非課税口座であり、利益も損失もないものとされるため、損益通算の対象外です。NISA口座で損失が生じても、他の口座の利益と通算することはできないので注意しましょう。
特定口座内での損益通算
特定口座は、証券会社が自動的に損益計算や税金計算をする口座です。
ケース別解説~売却益(譲渡益)・売却損(譲渡損失)の損益通算
一つの特定口座内で売却益と売却損の両方が出た場合、これらは自動で損益通算されます。例えば、X証券の特定口座における2025年の取引実績が以下のとおりであれば、三つの取引の損益が自動的に通算され、課税対象額は7万円となります。
【X証券の特定口座における2025年の取引実績】
2月:A社株を売却 → 10万円の利益
4月:B社株を売却 → 6万円の損失
6月:C社株を売却 → 3万円の利益
税金の計算
年間利益:10万円-6万円+3万円=7万円(自動で損益通算)
税額 :7万円 × 20.315% = 約14,000円
なお、特定口座(源泉徴収あり)を利用し、年間利益がマイナスとなった場合は、源泉徴収された税金が都度自動的に返金されます。
ケース別解説~配当金等と譲渡損失の損益通算
一定の要件を満たすと、同じ特定口座内の利子・配当金・分配金(利益)と譲渡損失を自動的に損益通算されます。具体的には、以下二つの条件等を満たしている必要があります。
1. 特定口座の区分が「源泉徴収あり」
2. 配当金等の受取方法が「株式数比例配分方式」
上場株式等であっても条件に当てはまらない場合、譲渡損失と通算するためには、確定申告において「申告分離課税」を選択して申告する必要があります。ただし、一般株式等では、譲渡損益間での損益通算はできますが、譲渡損失と利子・配当等の間での損益通算はできません。
具体例を見てみましょう。例えば、X証券の特定口座における2025年の取引実績が以下のとおりであれば、売却益・損と配当金による利益が自動的に通算され、課税対象額は5万円となります。
【X証券の特定口座における2025年の取引実績】
4月:A社株を売却 → 6万円の損失
6月:B社株を売却 → 3万円の利益
11月:C社株からの配当金を受け取り → 8万円の利益
税金の計算
年間利益:-6万円+3万円+8万円=5万円(自動で損益通算)
税額 :5万円 × 20.315% = 約10,000円
複数の証券口座間での損益通算
複数の証券会社に口座を開設している方もいるでしょう。例えば、X証券の口座で利益が出て、Y証券の口座で損失が出た場合、それぞれの口座で発生した損益を通算したい場合には、確定申告が必要です。特定口座を利用している場合であっても、同様です。
複数口座間での損益通算
例えば、X証券の特定口座で投資信託から8万円の売却益が生じ、Y証券会社の特定口座では5万円の売却損が生じたとしましょう。
このような場合、特定口座であっても、証券会社が異なるため自動で損益通算はされません。ただし、確定申告を行えば、8万円の売却益と5万円の売却損を相殺後の利益3万円を課税対象額とすることができます。
なお、配当金や分配金を受け取った場合の損益通算の条件は、複数口座間であっても、上記「配当金等と譲渡損失の損益通算」と同様です。
確定申告が必要なケース
ここまでの解説をまとめると、以下に当てはまる場合、損益通算を適用するためには確定申告が必要です。
- 複数の証券会社の口座間(特定口座・一般口座)で損益通算したい場合
- 特定口座と一般口座の間で損益通算したい場合
- 特定口座(源泉徴収あり)だか配当等を受け入れておらず、利子・配当金・分配金と譲渡損益を損益通算したい場合
損益通算に関するQ&A
Q1:NISA口座で発生した利益や損失は他の口座の利益と通算できますか?
A:いいえ、NISA口座(つみたてNISAを含む)は非課税口座であり、利益も損失もないものとされるため、他の口座で発生した利益と通算することはできません。
例えば、NISA口座内で株式の売却損が出ても、課税口座(特定口座・一般口座)の利益と通算することはできません。NISA口座は非課税のメリットがある反面、損失が出た場合には税制上のメリットを受けられないというデメリットもあります。この特性を理解したうえで、NISA口座と課税口座をうまく使い分けるとよいでしょう。
なお、米国株など海外株式の配当金は、証券会社によっては特定口座(源泉徴収あり)に受け入れられる場合が少ないです。配当金と売却損の損益を通算したい場合、確定申告を行って「申告分離課税」を選択する必要があります。証券会社・銘柄ごとに取り扱いが異なるため、事前に確認しておきましょう。
Q2:配当金や分配金、利子は、損益通算の対象になりますか?
A: 損益通算で相殺可能な利益は、「利子所得」、「配当所得」、「分配金」の3つに分類され、それぞれに詳細な条件と制限があります。一定の要件を満たすことで、特定口座内の利子・配当金・分配金・利子(利益)と譲渡損失を自動的に損益通算できます。具体的には、以下二つの条件を満たしている必要があります。
- 特定口座の区分が「源泉徴収あり」
- 配当金等の受取方法が「株式数比例配分方式」
条件に当てはまらない場合、譲渡損失と通算するためには、確定申告において「申告分離課税」を選択して申告する必要があります。
なお、投資信託の「特別分配金(元本払戻金)」は非課税であり、損益通算の対象にはなりません。損益通算の対象となるのは課税対象の「普通分配金」のみです。
Q3:国内上場株式と外国上場株式の損益は通算できますか?
A:はい、国内上場株式と海外上場株式(米国株など)の損益は通算できます。
ただし、海外株式の場合、為替変動の影響も含めて損益計算されることに注意が必要です。円換算は取引日ごとにその日の銀行公示相場におけるTTS(銀行が顧客に外貨を販売する際の為替レート)を使うのが原則です。
Q4:特定口座(源泉徴収あり)を使っていても、損益通算のために確定申告が必要なケースはありますか?
A:はい、以下のようなケースでは特定口座(源泉徴収あり)を利用していても確定申告が必要です。
- 複数の証券会社の特定口座間で損益通算したい場合
- 配当所得と譲渡損失を通算したい場合(特定口座(源泉徴収あり)で配当等を受け入れており、配当金受取方法が株式数比例配分方式の場合を除く)
特定口座(源泉徴収あり)は原則として「確定申告不要」ですが、上記のようなケースでは確定申告が必要です。
Q5:株式の損失を繰り越すことはできますか?
A:原則として、上場株式の譲渡損益の損益通算は同一年分に限りますが、確定申告をすることで損失を最大3年間繰り越せます。
繰越控除を利用するためには、必ず損失が発生した年に確定申告が必要です。また、いったん繰り越した損失を維持するためには、翌年以降も毎年確定申告を続ける必要があります。1年でも申告を忘れると、その後の年で繰越控除を利用できなくなるので注意してください。
記事監修者
岡和恵岡和恵税理士事務所
大学卒業後、2年間の教職を経てシステム会社に入社。
システム開発部門でERP導入と会計コンサル、経理部門での財務および税務会計を経験。
税理士、CFPなどを取得。2019年より税理士事務所を開業。
会計・税務の豊富な実務経験と知見を生かし、税理士業務のほか監修者としても活躍中。