SUMMARY
経済の動きや産業・企業の動向などから投資環境を分析し、投資戦略を立案する「マーケットストラテジスト」。市場(マーケット)の分析を通して、お客さまに投資の指針を提供しています。
今回は、NPO法人日本テクニカルアナリスト協会(NTAA)の副理事長も務め、セミナーでの講演やメディアへの寄稿も行う中村さんに、業務を行ううえで心掛けていることややりがい、資産運用や投資のポイントなどについて聞きました。
【中村克彦】
1992年に入社後、セールスやトレーダーを経て、現在はストラテジストとして従事。2012年、2013年に「みずほ証券 社長大賞」を連続受賞。NPO法人日本テクニカルアナリスト協会副理事長。
第1章:市場分析でみえてくる世界を、もっと多くの方へ
まずは、これまでの経歴と市場分析の世界へ足を踏み入れたきっかけを教えてください。
- 中村
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1992年に入社し、20代セールス、30代トレーダー、40代アナリストを経て現職のストラテジストになりました。
入社直後、失われた20年(1990年代初頭のバブル崩壊後に20年以上にわたって続いた日本経済の停滞)へ突入。下げ相場の中でお客さまの資産をどのように守るか、本気で悩みました。攻めの営業力よりも客観的な分析力が必須と感じ、たどり着いた先がテクニカル分析、市場分析の世界でした。
3次試験まである国際資格MFTA(Master of Financial Technical Analysis、国内保有者約50名)を取得し、相場の根幹を学びました。その1つが200日線。過去1年弱の水準を示し、需給の5合目と言い換えられます。投資は長期・分散・積立、目先の値幅を追うのが投機。投資が「線」ならば、投機は「点」でしょうか。短期のマネーゲームを控え、200日線に沿った積立投資が重要です。
現在、NPO法人日本テクニカルアナリスト協会の副理事長も務めています。テクニカル分析を正しく楽しく学んでいただきたいです。
メディアへの寄稿やセミナー等の発信活動を行ううえでの想いや原動力を教えてください。
- 中村
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セミナーの主役は話し手ではなく聞き手。自分が話したいことより、相手が聞きたいことに重きを置きます。専門用語をかみ砕いて、どのようにわかりやすく伝えるか、これはお客さまからの教えです。それ以来、私は登壇時に平易な言葉を使うようにしています。
レポートの主役は書き手ではなく読み手。インパクトある内容をどのようにコンパクトにまとめるか、腕の見せどころです。執筆時の要点は3つまで。4つ以上は書き手の自己満足になりかねないと自戒しています。
「仕事ではなく志事として全うする」、これは東日本大震災時に出会った某企業のトップからの教えです。同氏いわく、給与(利己)のために働くのが仕事、世間(利他)のために働くのが志事。
それ以来、私もストラテジストの端くれとして、高い志をもって業務に取り組んでいます。めざすはナンバーワンよりもオンリーワン。半歩先の有益な情報提供に努め、お客さまから感謝される。これこそ、私の原動力です。
2年連続でみずほ証券社長大賞を受賞されていますが、受賞の経緯やきっかけを教えてください。
- 中村
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1度目の受賞は動画配信。まずはご支援くださった関連部署の皆さまへ感謝申し上げたいです。約10年前、紙のレポート配信が主流である頃、「YouTubeみずほ証券公式チャンネル」がスタート。その後、スマホ視聴の普及とともに「みずほデイリーVIEW」等の番組拡充へ至っています。最近では若手社員の出演者も増えてきました。
2度目の受賞はセミナー。お客さまからいただいたアンケートの評価が高かったようです。これはお客さまに教わった「わかりやすさ」と、メディア出演で学んだ「時間管理」が功を奏しました。会社の業務は分単位ですが、テレビの世界は秒単位。たとえ内容が素晴らしくても、終了時間をオーバーする登壇者は、お客さまからの評価が下がります。100名のセミナーで1分超過すれば、お客さまの大切な時間を100分も奪っています。終了時間の厳守。プロの登壇者として、お客さまに対する最低限のマナーではないでしょうか。
第2章:市場動向からお客さまの判断材料を抽出する私の志事
「マーケットストラテジストの業務」とは何ですか?
- 中村
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「調べる、書く、伝える」の3つです。
1つ目が調査。長期データから異常値をみつけ、市場からのサインを読む。
2つ目が執筆。レポートは要点を3つ以内にまとめ、読み手目線でお伝えする。
3つ目が登壇。セミナー等では平易な用語を使い、聞き手へ丁寧にお届けする。
それと、常に正しいのは「マーケット」。相場に対して、ストラテジストは謙虚であるべきです。多種多様な投資家が相場形成を担っています。新規参加者等が増え、バブルが発生することもあります。このような相場の勢いに流されないよう、テクニカル分析で警戒サインを探します。半歩先の情報提供。お客さまへ安心感と信頼感もご提供できるよう、心掛けています。
市場分析の業務を行ううえで、意識していることを教えてください。
- 中村
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「分析の使い分け」と「昼の活用」です。
まず、平時は業績(ファンダメンタルズ)、有事は需給(テクニカル)を重視しています。金融危機のような活字が舞うと、市場は悲観論に揺れ、投資家は冷静さを失います。過去最高値のような活字が躍ると、市場は楽観論に包まれ、投資家は高揚します。歴史的な天底を振り返ると、テクニカル分析が相対的に有用です。市場が発する異常値を見極めるようにしています。
次に、昼の活用。30代のトレーダー時代から一日一食を続けています。基本、夕食のみです。利点は仕事に集中できること、身体が楽であること、夕食に何を食べてもおいしいことです。この話題を出すと、だいたいドン引きされます・・・笑。
マーケットストラテジストとして、やりがいや喜びを感じることは何ですか?
- 中村
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1つ目はお客さまの声。「今日のセミナーは役に立った」「次回もぜひ参加したい」と、お客さまに満足していただけるとうれしいです。
2つ目は営業員の声。「勉強会が営業のヒントになった」「あのレポートが顧客先で使えた」と、現場支援の最適化につながった時にやりがいを感じます。
3つ目は市場関係者の声。「テクニカルの記事がヒットした」「半歩先の分析が良かった」と、書き手のプロである新聞記者からの評価は励みになります。
私のポリシーは「天井圏では慎重に、底値圏では大胆に」。唯一無二のストラテジストをめざして、みずほファンを増やしていきたいと思っています。価値ある情報を提供できるよう、「ともに挑む、ともに実る」のスローガンのもと、今後もお客さまとマーケットありきというポリシーを胸に邁進していきます。
第3章:あなたにもおすすめしたい、市場分析の第一歩
投資初心者に向けて、資産運用や投資のポイントを教えてください。
- 中村
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1つ目は投資と投機。投資が数年単位、投機が数日単位でしょうか。米著名投資家の一人は、「10年保有する気がないなら、10分も持たない方が良い」と唱えています。売買回数が多ければ、その再現性は低くなります。マネーゲームは簡単そうにみえますが、ほとんどマネできないのです。
2つ目は72の法則。これは複利運用の強みです。年7.2%であれば10年後に、年3.6%であれば20年後に、元本が2倍へ殖える目安となります。
3つ目は運用ステップ。株価指数の積立運用に慣れてから、個別株の売買への移行するのが無難でしょう。リスクヘッジは銘柄分散と時間分散。個別株は破綻リスクを内包していることを理解しましょう。
投資中級者や上級者に向けて、資産運用や投資のポイントを教えてください。
- 中村
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常に自身のモノサシを持ちましょう。相場の勢いに流されずに、過度な売買を控えることです。平時の日経平均株価のフレ幅は上下2割程度です。24年の年初来騰落率も+19%でした。
24年夏、日経平均株価は42,200円台まで上昇。5万円も近いといわれた直後に、31,400円台まで急落しました。何が起きたのか、慌てた投資家も少なくないでしょう。
チャート上では200日線上下15%に収まっています。つまり、山の高さと谷の深さがほぼ同じでした。これがテクニカル分析からみた相場の知恵です。200日線は需給の5合目といえます。他者の意見に流されないよう、自身の相場観を磨きましょう。
<おまけ>最後に、資産運用をするうえでのアドバイスはありますか?
- 中村
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まずはデジタル・デトックス。スマホ依存からの脱却です。SNSやゲームに没頭し、大切なスキマ時間を浪費していませんか。前述の米著名投資家は、電話で用件を済ませ、メールはほとんど使わないそうです。
次に知識習得。スキマ時間で運用スキルを身につければ、情報の取捨選択ができます。ネット上はニセ情報も氾濫しており、それを鵜呑みにしないことです。それとオン・オフのメリハリ。脳や心を休ませると、集中力や分析力も高まるそうです。減らす努力と殖やす努力。スキマ時間を創出してから、資産運用をおすすめします。
