どのくらいかかるの?出産費用
知る・気づく

どのくらいかかるの?出産費用

SUMMARY

出産は新しい家族が増える喜びを感じることのできるライフイベントですが、妊娠から出産までは多額の費用がかかります。さまざまな公的補助制度が利用できるものの、全額が補助されるわけではありません。ある程度まとまったお金を計画的に準備しておくことが大切です。
この記事では、妊娠から出産までにかかる主な費用と公的補助制度について紹介します。

妊娠から出産までにかかる主な費用

妊娠から出産までにかかる主な費用には、次のようなものがあります。
 
  • 入院・分娩費用
  • 妊婦検診
  • マタニティ用品やベビー用品の購入費
  • 実家に帰省する際の交通費(里帰りして出産する場合)

入院・分娩費用


(表1)2022年度 費目別の出産費用の状況(全施設・正常分娩)
費用 料金
入院料 118,326円
分娩料 282,424円
新生児管理保育料 50,052円
検査・薬剤料 14,739円
処置・手当料 16,753円
室料差額 17,441円
産科医療補償制度の掛け金 11,820円
その他 34,242円
合計 545,797円
出所:厚生労働省 第167回社会保障審議会医療保険部会資料「出産費用の見える化等について」

厚生労働省保険局が集計したデータによると、入院や分娩等でかかる費用の総額は545,797円です。入院料と分娩料のほか、新生児の検査や保育にかかる新生児管理保育料、分娩に関連して発症した重度脳性麻痺の赤ちゃんと、その家族の経済的負担を補償する産科医療補償制度の掛け金などがかかります。

なお、入院や分娩等でかかる費用は、医療機関の種類や地域などによって差があります。

医療機関の種類は、国公立病院や国公立大学病院などの公的病院、私立大学病院や個人病院などの私的病院、個人診療所や助産所などの診療所の3種類に分類され、平均的な費用は公的病院が最も低く、私的病院が最も高くなります。厚生労働省保険局の集計では、2022年度の出産費用の合計額(正常分娩、室料差額・産科医療補償制度の掛け金・その他の費目を除く)は高い順に、私的病院で506,264円、診療所で478,509円、公的病院で463,450円となっています。

正常分娩をした場合のデータになりますが、地域別では、平均値が最も高いのが東京都で605,261円、最も低いのが熊本県で361,184円となっています。必ずしも都市部が高く、地方が低いとは言えませんので、ご自身が出産する地域の費用水準を前もって調べておきましょう。

以下リンクの26~27ページに都道府県別の出産費用の状況(2022年度)が記載されています。
 

適切な医療機関を妊産婦が選択できるよう、政府は「出産費用の見える化」を進めており、2024年4月をめどに、医療機関ごとの出産費用や合計負担額、平均入院日数などを公表する見通しです。出産費用の見える化が進めば、より医療機関の選択がしやすくなるでしょう。
 

妊婦健診

妊婦健診は、妊婦や赤ちゃんの健康状態を定期的に確認するための大切な健診です。医師や助産師などに、妊娠・出産・育児に関する相談をすることもできます。厚生労働省では、妊娠初期から出産まで合計14回程度の受診を推奨しています。
 
  • 妊娠初期~妊娠23週・・・4週間に1回(受診回数4回)
  • 妊娠24週~妊娠35週・・・2週間に1回(受診回数6回)
  • 妊娠36週~出産・・・週1回(受診回数4回)

妊婦健診の費用には、公的補助制度があります。医療機関の検査で妊娠がわかった後に、お住まいの地方自治体に妊娠を届け出ると、母子健康手帳や妊婦健康診査費用の補助券が交付されます。自治体によって交付枚数は異なりますが、妊婦健診は14回の受診が一般的なため、14回分の補助券が交付されることが多くなっています。

医療機関で妊娠を検査する初診は、全額自己負担となり1万円程度かかります。以降の健診では、補助券を利用することで負担を軽くできます。ただし、補助券は追加でもらうことができません。妊婦や赤ちゃんの健康状態によって受診回数が増えることがありますが、補助券を使い切った後の健診は自己負担になります。

受診回数や地方自治体の補助額の違いなどにより差がありますが、一般的な14回受診の場合の自己負担額は5万円~10万円程度になります。

マタニティ用品やベビー用品の購入費

出産費用の中には、妊産婦が利用するマタニティ用品、生まれてくる赤ちゃんのためのベビー用品の購入費も含まれます。マタニティ用品の主なものは、マタニティドレスや下着などで平均3万円程度かかります。ベビー用品の主なものは、おくるみ、ベビー服、オムツ、粉ミルク・授乳用品、ベビーベッド・布団、バス用品などで平均15万円程度かかります。

マタニティ用品やベビー用品を使う期間はそれほど長くないため、今後を見据えて節約したいと考える方もいます。節約したい場合は、レンタルサービスを利用したり、おさがりを利用すると良いでしょう。
 

実家に帰省する際の交通費など

里帰り出産の場合は、実家に帰省したり家族が往復したりする際の交通費がかかります。また、妊産婦が実家にいる間、家族が離れて生活することで、いつもより多くの生活費がかかることもあります。

実家と住まいの距離や、妊産婦が実家にいる期間は人によって異なるため、金額を算出することは難しいですが、里帰り出産を考えている方はこれらの費用を見積もっておく必要があります。

出産費用に健康保険は適用される?

入院料や分娩料などの出産費用は、原則として公的医療保険(国民健康保険・健康保険・共済組合・後期高齢者医療制度)が適用されません。妊娠・出産は病気やケガに該当しないため、正常分娩の場合の出産費用は全額自己負担になります。ただし、帝王切開などの異常分娩、妊娠高血圧症候群の処置など医療行為があった場合は、公的医療保険が適用されます。

(表2) 公的医療保険の適用について
適用されない

正常分娩

適用される

異常分娩(鉗子娩出術、吸引娩出術、帝王切開術)
陣痛促進剤の投与
妊娠高血圧症候群、貧血などに対する医療処置 など

出所:医療機関ウェブサイト、各種報道等を基に作成

なお、政府が2023年3月にまとめた少子化対策のたたき台には、出産費用の保険適用を検討する方針が盛り込まれています。 
 
厚生労働省は、2023年4月に実施された出産育児一時金の引き上げ、2024年4月をめどに開始予定となっている出産費用の公表制度の効果を見極めたうえで、2026年度をめどに議論を進める方針としています。 

出産に関する公的補助制度

妊娠や出産の費用負担は小さくありませんが、さまざまな公的補助制度が設けられています。
 
  • 妊婦健康診査費用の補助券
  • 出産育児一時金
  • 出産手当金
  • 高額療養費制度
  • 医療費控除
  • 児童手当
 

妊婦健康診査費用の補助券

医療機関の検査で妊娠がわかった後に、お住まいの地方自治体に妊娠を届け出ることで交付されます。

自治体によって交付枚数は異なりますが、妊婦健診は14回受診することが一般的なため、14回分の補助券が交付されることが多くなっています。助成額(割引額)は自治体ごとに差があります。

補助券を追加でもらうことはできないため、使い切った後の健診は自己負担になります。
 

出産育児一時金

妊娠4ヵ月(85日)以上の方が出産(死産や流産も含まれます)したときは出産育児一時金が支給されます。

産科医療補償制度に加入している医療機関等で妊娠週数22週以降に出産した場合、1児につき50万円が支給されます。産科医療補償制度に未加入の医療機関等で出産した場合や、産科医療補償制度に加入している医療機関等で妊娠週数22週未満で出産した場合は、1児につき48.8万円が支給されます。
(表3) 出産育児一時金の給付額(2023年4月1日以降の出産の場合)
産科医療補償制度に加入の医療機関等で妊娠週数22週以降に出産した場合 1児につき50万円
産科医療補償制度に未加入の医療機関等で出産した場合 1児につき48.8万円
産科医療補償制度に加入の医療機関等で妊娠週数22週未満で出産した場合
出所:全国健康保険協会(協会けんぽ)

出産育児一時金は、「直接支払制度」を利用して支給を受けることができます。この制度は、医療機関が妊産婦に代わって出産育児一時金の申請と受け取りを行うものです。出産する医療機関で、出産前に手続きをすることで利用できます。

直接支払制度を利用すると、出産育児一時金が医療機関へ直接支払われるため、医療機関の窓口で支払う出産費用は「出産育児一時金を上回った金額(差額)」になります。出産費用が出産育児一時金を下回った場合は差額を受け取ることができます。多くの医療機関で直接支払制度を利用することができますが、小規模の病院などでは対応していない場合もあります。事前に確認しておきましょう。

直接支払制度を利用しない方は、加入している健康保険の窓口に直接請求して出産育児一時金を受け取ります。この場合、自己負担で出産費用を全額支払い、その後に出産育児一時金の支給申請を行います。
 

出産手当金

出産手当金は、出産が理由の休暇により給与が支払われなかった期間を対象に支給されるものです。健康保険の制度であるため、健康保険に加入している会社員が対象です。国民健康保険の加入者は、利用することができません。

対象期間は、出産日(出産が予定日より後になった場合は出産予定日)以前42日(多胎妊娠の場合は98日)から出産日の翌日以降56日までの範囲内で、会社を休んで給与支払いがなかった期間を対象として支給されます。出産日は産前期間に入り、出産予定日よりも遅れて出産した場合は、遅れた期間についても支給対象となります。

1日当たりの支給金額は、次の計算式で算出されます。

(支給開始日の以前12ヵ月間の各標準報酬月額を平均した額)÷30日×(2/3)
 
  • 支給開始日:一番最初に出産手当金が支給された日
  • 支給開始日の以前の期間が12ヵ月に満たないときは、「支給開始日の属する月以前の継続した各月の標準報酬月額の平均額」「標準報酬月額の平均額」のいずれか低い額を用いて計算する
 

高額療養費制度

高額療養費制度は、医療機関や薬局の窓口で支払う医療費が1ヵ月(歴月:1日から末日まで)で上限額を超えた場合、その超えた額を支給する制度です。

上限額は年齢や所得に応じて定められています(表4参照)。正常分娩の場合には同制度を利用することができませんが、異常分娩などの医療行為があった場合は同制度を利用することができます。
(表4) 高額療養費制度の上限額(69歳以下)
適用区分 ひと月の上限額(世帯ごと)
年収約1,160万円~

 健保:標準報酬月額83万円以上
 国保:旧ただし書き所得901万円超
252,600円+(医療費-842,000)×1%
年収約770~約1,160万円

 健保:標準報酬月額53万~79万円
 国保:旧ただし書き所得600万~901万円
167,400円+(医療費-558,000)×1%
年収約370~約770万円

 健保:標準報酬月額28万~50万円
 国保:旧ただし書き所得210万~600万円
80,100円+(医療費-267,000)×1%
~年収約370万円

 健保:標準報酬月額26万円以下
 国保:旧ただし書き所得210万円以下
57,600円
住民税非課税者 35,400円
出所:全国健康保険協会(協会けんぽ)
 

医療費控除

医療費控除は、1月1日から12月31日までの間に支払った医療費が一定額を超えるとき、その医療費の額を基に計算される金額の所得控除を受けることができる制度です。出産に伴う費用のうち、以下に該当する費用は医療費控除の対象となります。
 
  • 妊娠と診断されてからの定期検診や検査などの費用および通院費用
  • 出産で入院する際に公共交通機関の利用が困難で、タクシーを利用した場合のタクシー代
  • 病院に対して支払う入院中の食事代

入院時に購入した身の回り品の代金、入院中に取った出前や外食の代金は控除の対象になりません。

医療費控除を受ける場合は、支払いを証明する領収書などが必要です。領収書の発行されないものは、家計簿等に記録するなどして実際にかかった費用について説明できるようにしておきましょう。
 

児童手当

出産費用とは異なりますが、子どもが産まれて養育者になると児童手当を受けることができます(中学校卒業まで(15歳の誕生日後の最初の3月31日まで。2024年4月現在所得制限あり。))。

児童手当は、子どもが産まれた後に現住所の市区町村に「認定請求書」を提出(公務員の場合は勤務先に提出)することで支給が始まります。市区町村の認定後は、原則として、申請した月の翌月分の手当から支給されます。

まとめ

妊娠・出産にかかる費用は、入院・分娩費用で約54万円、妊婦検診は多めに見積もって約10万円(妊婦健康診査費用の補助券を利用)、マタニティ用品やベビー用品で約18万円、計82万円程度の費用がかかります(里帰り出産のケースではさらに交通費等を加算)。

1児あたり50万円が支給される出産育児一時金を充当しても、自身で30万円超のお金を用意しておく必要があります。

みずほ証券からの
ひとこと

30万円程度であれば、1年間毎月3万円の貯金をすれば用意できますが、子どもが産まれた後は家族の生活費も増えます。数年後には教育費も必要になります。妊娠・出産だけでかかるお金だけを考えるのではなく、将来を見据えた資産形成に取り組みましょう。


合わせて読む


あなたに寄り添い、一緒に前へ

投資の世界をもっと知りたい、深掘りしたい。
進み続ける、あなたとともに。