SUMMARY
生前贈与は、相続対策の有効な手段の一つですが、活用できる制度や特例は、個人によってさまざまです。本記事では、生前贈与の概要とメリット、活用を検討したい制度や留意点について解説します。
生前贈与とは
なお、贈与した財産は贈与税の対象となり、一定金額を超えた場合は贈与税がかかります。非課税枠内で贈与することや、特例制度の活用などの対策を講じることが重要です。
贈与は、口約束だけでも契約が成立します。ただし、口約束だけでは、後々のトラブルに発展する可能性があります。贈与契約書を作成するなど、受贈者と合意しておくことをおすすめします。
生前贈与のメリット
子や孫などに財産を生前贈与しておくメリットを紹介します。
相続税の軽減効果
生前贈与することで相続財産を減らせるため、相続税を軽減できる場合があります。贈与税の非課税枠を活用できる
贈与税には基礎控除額や資金の用途などに応じた非課税枠が設けられています。計画的に生前贈与を行うことで、贈与税の負担なく贈与を行うことが可能です。特定の人に特定の財産を残せる
特定の人に特定の財産を残したい場合、生前贈与を行うことは選択肢の一つです。預貯金や居住用財産などはもちろん、会社経営者の場合は自社株式や事業用不動産などの財産なども贈与の対象となります。遺言書を作成して、どの相続人がどの財産を受け継ぐのかを指定することが可能ですが、相続内容に不満を持つ相続人がいるとトラブルに発展する場合があります。生前贈与を活用することでそうした事態を避けることができます。
暦年贈与と相続時精算課税制度
暦年贈与(暦年課税制度) | 相続時精算課税制度 | |
---|---|---|
贈与者 | 制限なし | 60歳以上の父母および祖父母 |
受贈者 | 制限なし | 18歳以上の子および孫 |
非課税枠 | 年間110万円まで | 累計2,500万円まで (年110万円の基礎控除が新設され、2024年1月1日からの贈与が対象) |
税率 | 10%から55% | 2,500万円を超えた部分に一律20% |
相続発生時の 相続財産への加算 |
なし (相続開始前7年以内の贈与で、2024年1月1日からが対象) |
対象 |
暦年贈与なら、年間110万円まで非課税
暦年課税制度は、贈与税の一般的な制度です。1月から12月までの1年間の贈与に課税される制度で、基礎控除額110万円を差し引いた金額に対して贈与税を算出します。1年間に贈与を受けた財産の合計額が110万円以下であれば、贈与税はかからず、贈与税の申告は原則として不要です。
●暦年贈与における贈与税額の計算式
(1年間に受け取った財産の価額の合計額-110万円)×税率-控除額
暦年贈与における贈与税率
贈与税率は特例税率(特例贈与財産用)と一般税率(一般贈与財産用)の2つに区分され、税率は区分ごとに異なります。特例税率は、贈与を受けた年の1月1日において18歳以上の者が直系尊属(父母、祖父母など)から贈与を受けた際に適用される税率です。一方、一般税率は特例贈与財産用に該当しない場合の税率です。基礎控除後の課税価格 | 200万円以下 | 400万円以下 | 600万円以下 | 1,000万円以下 | 1,500万円以下 | 3,000万円以下 | 4,500万円以下 | 4,500万円超 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
税率 | 10% | 15% | 20% | 30% | 40% | 45% | 50% | 55% |
控除額 | - | 10万円 | 30万円 | 90万円 | 190万円 | 265万円 | 415万円 | 640万円 |
基礎控除後の課税価格 | 200万円以下 | 300万円以下 | 400万円以下 | 600万円以下 | 1,000万円以下 | 1,500万円以下 | 3,000万円以下 | 3,000万円超 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
税率 | 10% | 15% | 20% | 30% | 40% | 45% | 50% | 55% |
控除額 | - | 10万円 | 25万円 | 65万円 | 125万円 | 175万円 | 250万円 | 400万円 |
例)30歳の子が祖父から1,000万円の贈与を受けた場合
課税金額:1,000万円-110万円=890万円
贈与税額:890万円×特例税率30%-控除額90万円=177万円
⇒177万円の贈与税を納税が必要
暦年贈与のメリット
暦年贈与のメリットは、継続的に贈与ができることです。暦年贈与を活用し、毎年110万円以下の贈与を続けることで徐々に相続財産の総額を減らしつつ、非課税で子や孫などに財産を贈与することができます。仮に100万円を毎年贈与し、10年間継続すれば総額1,000万円分の相続財産を減らすことができると同時に、全額非課税で贈与できます。相続時精算課税制度を選択した場合は、累計2,500万円まで非課税
相続時精算課税制度とは、受贈者(18歳以上の子および孫)が2,500万円まで贈与税がかからずに贈与を受けることができ、贈与者が亡くなったときにその贈与財産の贈与時の価額と相続財産の価額を合計した金額から相続税額を計算し、一括して相続税として納税する制度です。また、2024年1月からは、年間110万円の基礎控除が設けられました。
●相続時精算課税制度における贈与税額の計算式:
(「1年間の贈与額-110万円」の累計額-2,500万円)×20%
例)30歳の子が、祖父から5年間毎年500万円の贈与を受けた場合
(500万円-110万円)×5年間-2,500万円=1,950万円 < 2,500万円
⇒2,500万円以下のため、贈与税はかからない。
●相続が発生した場合の、相続財産への加算額
「1年間の贈与額-110万円」の累計額
相続時精算課税制度における贈与税率
相続時精算課税制度における税率は、一律20%です。
相続時精算課税制度のメリット
相続時精算課税制度のメリットは、早期にまとまった資産を贈与できることです。住宅購入費用など、子や孫がまとまった資金を必要とする際に活用しましょう。また、相続財産への加算時は、贈与時の評価額で加算されます。このため、不動産などを贈与し、相続発生時に不動産価格が大きく値上がりした場合でも、相続税は贈与時の評価額に基づいて計算されます。
親が子に3,000万円の不動産を贈与する場合を例にします。贈与後の相続発生時に不動産価格が5,000万円に上昇した場合でも、贈与時の3,000万円で評価されますので、将来的に資産価値が上昇しても、相続税の負担増を回避できます。
相続時精算課税制度の注意点
相続時精算課税制度は、暦年贈与との併用はできません。適用するには、贈与者ごとに「相続時精算課税選択届出書」を提出する必要があります。この届出書を一度提出すると、その後暦年贈与に変更することができなくなる点に注意が必要です。なお、他の贈与者からの贈与で暦年贈与を受けることは可能です。また、同制度を利用して贈与により取得した宅地などは、「小規模宅地等の特例※」の適用を受けることができません。宅地の評価額が高ければ、この特例により大きな節税効果が期待できます。いずれ宅地を相続することが想定される場合は、どちらを選択するか十分に検討しましょう。
- 居住用等の宅地を相続する場合、一定の要件を満たしていれば、評価額を一定額減額できる特例
生前贈与で活用したいその他の非課税枠
主なライフイベントには特例制度が設けられており、一度にまとまった資金を非課税で贈与することができます。
生前贈与を行う場合の留意点
生前贈与をする際には、次の点に留意しましょう。
相続開始前7年以内の贈与は、相続税の課税対象になる
暦年贈与を活用し、毎年継続した贈与を行うことで相続税対策ができます。しかし、2024年1月1日以降に贈与が行われる場合、相続発生前7年以内に行われた贈与は、相続税の課税対象とされます。仮に、贈与者が亡くなる3年前から暦年課税制度を利用したとしても、贈与した金額は相続財産として加算されますので、生前贈与は開始する時期に留意しましょう。なお、教育資金や結婚資金、住宅購入資金の贈与に活用できる非課税枠は、相続財産への加算対象外となります。
定期贈与とみなされると、贈与税が課税される
毎年一定額額を同じ時期に贈与していると定期贈与とみなされる場合があります。定期贈与に該当すると贈与した金額が一括して課税対象となり、贈与税が課されます。特別受益として相続の対象に持ち戻されることがある
特別受益とは、特定の相続人が被相続人から受けた特別な利益のことです。姉妹2人が母親の財産8,000万円を相続したケースを例にします。このケースで姉だけが母親の生前に3,000万円の贈与を受けていると、財産の8,000万円を2分の1ずつ相続すると不公平感が残ります。
この不公平感を解消するために、特別受益の持ち戻しが行われます。特別受益を受けた相続人は、特別受益を含めた相続分から、その特別受益の額を差し引いた財産を相続することになります。
【姉の相続財産について】
みなし相続財産:相続財産8,000万円+特別受益3,000万円=1億1,000万円
法定相続分:1億1,000万円÷2人=5,500万円
姉が相続する財産:5,500万円-3,000万円=2,500万円
特別受益の持ち戻しが適用されるのは、主に次のケースです。
・開業資金として贈与を受けた場合
・居住用の土地や建物を贈与された場合
・借金の返済を代わりに行ってもらった場合
遺留分に注意する
遺留分とは、遺言による財産の分配があった場合でも、一定の相続人が最低限の割合で遺産を受け取れる制度です。遺留分は被相続人の財産だけでなく、過去の生前贈与も対象となります。例えば、父親が亡くなる前に長男にだけ1,000万円を贈与し、遺言で残りの財産を長男と次男で均等に分けると定めたケースです。父親の遺産総額が6,000万円だった場合、本来であれば長男と次男が3,000万円ずつ相続します。
しかし、長男が受けた1,000万円の生前贈与まで考慮すると、実質的には長男の方が多くの財産を受け取ることになるため、次男に不公平感が残ります。この場合、長男に生前贈与された1,000万円は遺留分の侵害として、遺留分侵害額請求の対象となることがあります。
ただし、遺留分は誰が相続人であるかで割合が変わります。上記の場合、配偶者なし、子2人だと仮定すると、各人の遺留分は1/2×1/2=1/4です。贈与した1,000万円を持ち戻し必要だとすると、7,000万円×1/4=1,750万円が遺留分となります。
つまり、いずれかの相続した財産金額が1,750万円を下回った場合に遺留分侵害になるため、今回のケースは「3,000万円>1,750万円」なので遺留分侵害とはなりません。
受贈者以外にもできるだけ納得してもらえる贈与をする
生前贈与を検討する際には、受贈者だけでなく他の親族も納得できるように努めることが大切です。特定の方への贈与が事前に説明なく行われた場合、後に家族間の争いになることがあります。このため、受贈者以外の家族にも、贈与の動機や相続に対する考えを共有しておくことが望ましいでしょう。老後の生活費や介護費用不足に注意する
生前贈与は相続税対策として有効な手段です。しかし、相続税対策だけを意識して必要以上に生前贈与すると、自分の老後資金や介護費用などが不足する場合があります。老後生活は何年続くか誰にも分かりません。老後生活が長くなればその分生活費や介護費用は増えます。このため、生前贈与を検討する際は自分の老後資金や介護費用が不足しないように心掛けて計画を立てましょう。
- 本記事は2024/4/12時点の法制度を基に作成しています。
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ひとこと
生前贈与は、控除や非課税枠を活用することで、受贈者に過度な贈与税を負担させることなく、相続財産を減らすことができる有効な手段です。また、特例制度を活用すれば、一度にまとまった資金を非課税で贈与できます。
ただし、特別受益の持ち戻しや遺留分に留意し、後々に相続人の間でのトラブルに発展しないよう注意しましょう。また、生前贈与は開始する時期に留意しましょう。何から始めて良いか分からない場合は、税理士や金融機関の相談窓口など専門家に相談することをおすすめします。