債券の格付けとは?
債券の格付けは、債券を発行した
国や企業などの元本と利息の支払能力を、
民間の専門の格付会社(スタンダード&プアーズ(S&P)、フィッチ・レーティングス、ムーディーズ、JCR、R&Iなど)が評価し、
アルファベットなどの記号で表したものです。
投資家はどのようにこの格付けを活用すればよいのでしょうか。債券投資における最大のリスクは、債券を発行した国や企業のデフォルト(債務不履行)により、元本や利息が約束通りに支払われないことです。しかし、特に個人投資家にとっては、企業の財務諸表を細部まで読み解き、将来の返済能力を正確に評価することは簡単ではありません。そこで、評価するうえでの参考情報の一つとして、格付けがあります。格付けは、専門の格付会社による客観的な評価を、記号でわかりやすく示したものです。この格付けを参考にすれば、自分のリスク許容度に合った債券を見つけやすくなります。
なお、格付けの取得には費用がかかるため、格付けを取得していない債券もあります。すべての債券に格付けが付与されているわけではない点には留意しましょう。
出典:
「債券」とは?仕組みや魅力、リスクを解説 | みずほ証券
どのような格付会社がある?
世界的には「ビッグ3」と呼ばれるスタンダード&プアーズ(S&P)、フィッチ・レーティングス(Fitch Ratings)、ムーディーズ(Moody's)が有名です。これらの会社は100年以上の歴史を持ち、世界中の投資家から信頼されています。日本では、格付投資情報センター(R&I)や日本格付研究所(JCR)が主要な格付会社として、日本企業や地方公共団体等が発行する債券の評価で重要な役割を果たしています。
債券の格付けはどこで確認できる?
格付情報は、格付会社のウェブサイトで確認できます。
また、新発債券の募集時には、発行体名や利率などが記載されたリーフレットが展開されます。格付けを取得している場合、このリーフレットに格付情報も記載されていることがあります。リーフレットは、通常、金融機関のウェブサイトでも閲覧できます。
意外と見落としがちなのが、発行体のIR情報です。上場企業の多くは自社ウェブサイトで格付情報を積極的に開示しています。格付け推移のグラフや格付会社からの評価コメントが記載されている場合は、なぜその格付けになったのか理解を深められます。
格付けと信用力の関係
信用度が高いほど格付けも高く、信用度が低いほど格付けも低くなります。
投資適格格付けと投機的格付け
一般的に、格付会社から付与される
トリプルB格以上の格付けの債券は「
投資適格債」、
ダブルB格以下の格付けの債券は「
投機的格付債」や「
ハイイールド債(
ジャンク債)」と呼ばれます。
投資適格債は、元本や利息を支払うことができないリスク(信用リスク)が投機的格付け債に対して相対的に低く、比較的安定した投資対象とみなされます。世界中の年金基金や保険会社は、多くの場合、運用規定により投資適格債を中心に運用することになっています。例えば、保険会社は、契約者に保険金や満期金を必ず支払う義務があります。そのため、「信用度の高い債券」を中心に投資して、資産を安全に運用しているのです。
一方、投機的格付債は、信用リスクが投資適格債に対して相対的に高い債券です。成長途上の企業や、一時的に業績が悪化している企業の債券などがここに含まれます。
各社の格付けの定義
例として、主要な格付会社の記号体系を見てみましょう。ここでは、世界的に有名な格付会社であるスタンダード&プアーズ(S&P)、フィッチ・レーティングス(Fitch Ratings)、ムーディーズ(Moody's)の長期信用格付け※の定義を採りあげます。
- 長期信用格付け・・・将来(1年以上の期間)にわたる債務の支払能力や債務不履行リスクを評価したもの。
債券の格付けと利回り・価格の関係
一般論として、格付けは発行体の信用力に基づき付与されるため、格付けが高いほど相対的に利回りは低く、格付けが低いほど相対的に利回りは高くなります。例えば、同じ5年満期の社債でも、AAA格なら年0.5%、BBB格なら年1.5%、BB格なら年4%といった具合に、格付けが低くなるほど利回りは上がる傾向にあります。
また、発行体の業績等の変化に伴い格付会社により格付けが変更された場合、債券価格も影響を受けます。格上げとなれば、その債券の価格が上昇したり、逆に格下げとなれば、価格下落を招くこともあります。特に投資適格格付から投機的格付へ格下げした場合には、注意が必要です。なぜなら、格下げにより債券の信用リスクが高くなるため債券価格が下がりやすいのに加え、投資適格債しか保有できない機関投資家が売却することで、さらに価格が下がる可能性があるためです。
格付けを参考にする際の注意点
格付けは、債券投資における有用な情報ですが、過信は禁物です。実際の投資では、格付けだけでなく、償還までの期間、発行体の業績、担保の有無、市場の需給バランスなど、さまざまな要因を総合的に判断する必要があります。格付けは重要な判断材料の一つですが、それがすべてではありません。
格付けは万能ではない
2008年のリーマン・ショックでは、サブプライムローン関連の証券化商品の多くがAAA格を取得していたにもかかわらず、大規模なデフォルトが発生しました。なぜこのようなことが起きたのでしょうか。
第一に、格付けは主に過去のデータに基づく評価だということです。過去の延長線上に未来があるとは限りません。技術革新による産業構造の激変、パンデミック、戦争など、予測困難な事象は常に起こり得ます。
第二に、格付会社も完璧ではありません。複雑な金融商品のリスクを正確に評価することは、専門家でも困難な場合があります。また、同じ発行体でも格付会社によって評価が異なることがあり、どれが「正しい」とは言い切れません。
第三に、格付会社のビジネスモデルにも構造的な課題があります。多くの場合、格付けは国や企業(発行体)が手数料を支払って取得します。この「発行体払いモデル」には、潜在的な利益相反の懸念が指摘されています。そのため、現在では、格付会社の多くは利益相反を防ぐように規定を定めています。
さらに、格付けには「後追い傾向」もあります。市場が既にリスクを織り込んでいるのに、格付変更が遅れることがあるのです。債券投資を行う場合は、格付けだけに頼らず、情報収集をしっかりと行ったうえで判断するようにしましょう。
格付けは変動する
債券格付けは、固定された評価ではなく、変更される可能性がある指標です。発行体の業績や財務状況の悪化など、格付けが変更される理由はさまざまですが、特に警戒すべきは、連鎖的な格下げです。業績悪化等による格下げで資金調達コストが上昇し、それが業績をさらに圧迫、追加の格下げを招く悪循環に陥ることがあります。
今後1〜2年の格付けの見通しや方向性を示す「アウトルック」、近い将来の格付け見直しに関する調査を行っていることを示す「格付けウォッチ」をチェックしていくことも重要です。
債券の格付けに関するよくある質問(FAQ)
Q. 格付けが高ければ安全なの?
A.高格付けは信用力の高さを示しますが、「絶対的な指標」ではありません。AAA格でも金利上昇による価格下落リスクはありますし、外貨建て債券なら為替リスクも存在します。また、リーマン・ショックのような想定外の事態では、高格付債券も影響を受ける可能性があります。格付けは投資判断の参考となる情報の一つですが、他のリスク要因も含めて総合的に判断することが大切です。
Q. 格付けは企業ごとに付与される?債券ごとに付与される?
A. 両方が存在します。発行体格付けは、企業や国など、債券の発行体の信用力を評価したもので、個別債券格付けは特定の債券のリスクを考慮した評価です。同じ企業でも、条件によって格付けが2〜3段階異なることもあります。
Q. 格付けはどのくらいの頻度で変わる?
A. 通常は年1回以上の定期レビューが行われますが、状況次第では頻繁に変更されることもあります。安定した大企業なら数年間変わらないこともある一方、業績が不安定な企業では年に複数回変更されることもあります。特に景気後退期や業界再編期には、格付変更が頻発する傾向があります。
Q. 格付けが取得されていない債券は危険?
A. 必ずしも危険ではありませんが、投資判断が難しくなります。中小企業や地方の優良企業でも、コストの問題で格付けを取得していないケースがあります。格付けがない分、投資家自身でより分析を行う必要があります。まだ投資を始めたばかりの方は、格付けが取得されている債券から始めることをお勧めします。
Q. 格付会社ごとに違う場合、どれを参考にすべき?
A. 最も保守的(低い)な格付けを基準にするのが安全でしょう。投資のプロである機関投資家の多くは、複数の格付けの平均や、「2社以上から投資適格」といった観点をチェックしています。格付会社にはそれぞれ特徴があり、ムーディーズは長期的視点、S&Pは財務分析重視といわれています。複数の視点から総合的に判断することが理想的です。
Q. 途中で格付けが下がったらどうなる?
A. 既に発行されている債券価格は下落し、含み損が発生する可能性が高くなります。ただし、満期まで保有し、デフォルトしなければ元本は返済されます。格下げ時は慌てずに、発行体の状況を冷静に分析し、保有継続か売却かを判断しましょう。格下げ後に業績が回復し、格上げされるケースもあります。
Q. 格付けは日本と海外で意味が異なる?
A. 記号は世界共通ですが、実質的なリスクは異なる場合があります。「ソブリン・シーリング」という概念により、企業格付けは通常、所在国の国債格付けを超えません。例えば、新興国の優良企業のBBB格と、日本企業のBBB格では、実質的なデフォルトリスクが異なる可能性があります。新興国の場合、国自体の経済が不安定な場合があるので、突然元本を返済できなくなるリスクがあります。一方、日本は経済や財政が比較的安定しているため、同じBBBでもデフォルトのリスクは相対的に低いといえるでしょう。国際分散投資では、国・地域特有のリスクも考慮する必要があります。