SUMMARY
近年、日本の企業で活発化している自社株買いは、企業価値の向上や株主還元の強化につながる重要な戦略として注目を集めています。本記事では自社株買いの目的や株価への影響などを解説します。
自社株買いとは
上場企業の場合、自社株買いには、主に市場取引と公開買付け(TOB)の二つの方法があります。
市場取引
通常の株式取引と同様に、東京証券取引所などの株式市場を通じて、自社株を買い戻す方法です。 比較的小規模な買い付けに適しており、市場への影響を最小限に抑えることができます。公開買付け(TOB)
不特定かつ多数の株主に対して、買付条件(買付価格や期間など)の公告を行い、取引所を通さずに株式等を一定期間で買い付ける方法です。大規模な買い付けや、計画的に買い付けを行う際に選択されます。このほか、特定の大株主や機関投資家と直接交渉して市場外で株式を買い取る「相対取引」がありますが、取得に時間がかかるなどの理由から、この方法が用いられることは極めてまれです。
自社株買いの流れ
- 企業が取締役会で自社株買いを決定
※特定の株主からの自社株買いの場合は、事前に株主総会の特別決議が必要 - 買い付けの条件(期間、株数、金額など)を決定
- 決定内容を公表(適時開示)
- 自社株を買い戻し(市場取引、TOBなど)
- 買い付けた株式の処理(消却※1、または金庫株※2として保有)
※1 自社株買いなどのあとに取得した株式を消滅させること
※2 取得した後消却せずに、資産として保有している自己株式のこと
企業が自社株買いを行う理由
企業はなぜ自社株買いをするのでしょうか?企業が自社株買いを行う背景や理由を紹介します。
企業価値向上のため
自社株買いを行うと、発行済株式数が減少しPER(株価収益率)が低下するため、株価が上昇しやすくなります(詳細は、後述の「株主にとってのメリット」をご参照ください。)。
株主へ利益を還元するため
自社株買いによって発行済株式数が減ることで、1株当たりの純利益が上昇し、株式の価値が上がるため、間接的に株主への利益還元につながります。
資本効率を向上させるため
自己資本を利用して自社株買いを行うと、資本効率を示すROE(自己資本利益率)が向上します(詳細は、後述の「株主にとってのメリット」をご参照ください。)。近年では、東京証券取引所からの要請を背景に、資本効率の向上を目的とした自社株買いも増加しています。
ストックオプションの発行のため
企業が自社株買いを実施して取得した株式は、消却を行わない場合、「金庫株」として保有されます。金庫株は、従業員向けストックオプション制度の原資として活用されることがあります。これは、ストックオプションのために新株を発行すると、既存株主の持ち分が希薄化する一方、自社株買いで取得した金庫株を活用すれば、発行済株式総数を増加させることなくストックオプション制度を運営できるためです。
敵対的買収への対抗策
自社株買いにより自社株保有比率を高めることで、第三者から敵対的買収を仕掛けられるリスクを低減させることができます。なお、自社株買いは手元資金を利用して行います。このため、手元資金の減少や自己資本比率の低下により、財務の健全性が損なわれる可能性があるなどのデメリットもあります。
株主にとってのメリット
自社株買いは一般的に株価にポジティブな影響を与えるとされており、その背景にはPER(株価収益率)・EPS(1株当たりの純利益)とROE(自己資本利益率)の影響があります。
EPSの向上・PERの低下
PER(株価収益率)は、企業の株価が利益水準に対して割高か割安かを判断する指標です。自社株買い後に自己株消却を行った場合、発行済株式数が減少することで、EPS(1株当たり純利益:当期純利益÷発行済株式数)が上昇し、PER(株価÷EPS)は低下します。PERが低いほど株価は割安とみなされ、投資回収期間も短くなるため、株価が上昇しやすくなります。
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ROEの向上
ROE(自己資本利益率)は、企業が自己資本をどれだけ効率的に利用して利益を生み出しているかを測る指標です。自社株買いは自己資本を減少させるため、ROEは向上します。ROEが高くなるほど、企業が資本を効率的に活用して利益を上げていることを示すため、投資家からの期待や評価が高まり、株価上昇につながります。ただし、自社株買いが行われれば、必ず株価が上がるとは限りません。例えば、自社株買いの規模が小さい場合や、他の要因(業績悪化など)が強く影響する場合は、株価が上がらないこともあります。
自社株買いを通して自己資本比率が低くなっていないか、事業や設備投資への資金の備えが十分かどうかなども確認することが大切です。
株主にとってのデメリット
自社株買いには、株主にとってのデメリットもいくつかあります。
成長投資の減少により企業成長(株価の長期的な上昇)が鈍化する可能性
手元資金を自社株買いに利用することで、新たな成長機会への投資が減少することになった場合、長期的な成長が損なわれるリスクがあります。
流動性の低下
発行済株式数が減少することで、市場での売買が成立しにくくなる可能性があります。特に、小型株や時価総額の小さい企業の場合、株式の流動性低下が顕著になることがあります。
自社株買い後の株価変動
自社株買い実施後に、次の理由で株価変動が生じる可能性があります。利益確定売り(短期的な要因)
自社株買いによって株価が上昇した場合、値上がり益を確定させるための売り注文が増えることで、株価が下落する場合があります。需給環境の変化(構造的な要因)
自社株買いの終了により、自社株買いによる継続的な買い支えがなくなることで、需給バランスが変化し、株価が下落する場合があります。![みずほ証券で始める。口座をひらく](https://money-voyage.mizuho-sc.com/assets/img/articles/banner_account.png)
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ひとこと
自社株買いは、企業にとって企業価値向上と株主還元の両面で重要な役割を果たし、投資家にとっては企業の株主に対する姿勢や財務状況を読み取る重要な機会となります。自社株買い銘柄は、日本取引所グループのウェブサイト内の「自己株式立会外買付取引情報」や、TDnet、ニュースなどで確認できます。