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老後資金は本当はいくら必要?「2,000万円問題」や不足資金を解説
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老後資金は本当はいくら必要?「2,000万円問題」や不足資金を解説

SUMMARY

老後資金は、多くの人にとって将来への大きな不安の一つです。特に「老後2,000万円問題」がメディアで取り上げられて以降、多くの人が老後の経済的な準備について真剣に考えるようになったのではないでしょうか。本記事では、実際に必要になる老後資金や、将来を見据えた資産形成などについて紹介します。

老後資金は本当に「2,000万円」で足りるのか?

「2,000万円問題」とは

2019年6月、金融庁から公表された金融審議会市場ワーキング・グループの報告書が、日本中に大きな波紋を広げました。この報告書によると、夫65歳以上、妻60歳以上の標準的な高齢夫婦無職世帯では、毎月約5.5万円の赤字が発生し、30年の老後生活には約2,000万円の貯蓄が必要になると試算されています。

出所:金融庁「金融審議会 市場ワーキング・グループ報告書」

「2,000万円問題」の社会背景と課題

この問題が深刻に受け止められた背景には、日本社会が直面する三つの重要な課題があります。

第一に、日本人の平均寿命が大幅に延びていることが挙げられます。厚生労働省の統計によると、2020年の平均寿命は男性が81.49歳、女性が87.60歳に達しています。これは40年前(1982年)と比較すると、男性で7.27歳、女性で7.94歳もの延びを示しています。つまり、私たちは親の世代よりも大幅に長い老後生活を送ることになるため、それだけ老後資金が追加的に必要となります。
出所:厚生労働省「令和3年簡易生命表」


第二の課題は、退職金の減少傾向です。日本経済団体連合会の調査によると、大卒で60歳定年退職する場合の退職金は、2002年の2,512万円から2021年には2,243万円まで減少しています。約270万円の大幅な減少は、老後の生活設計に大きな影響を与えています。
出所:日本経済団体連合会・東京経営者協会「2021年9月度 退職金・年金に関する実態調査結果」

第三に、年金支給開始年齢の引き上げがあります。1960年4月2日以降に生まれた方は65歳からの支給となり、一般的な定年退職の年齢である60歳から年金受給までの期間をどう乗り切るかが新たな課題となっています。

「2,000万円」の試算で考慮されていないもの

また、老後2,000万円問題では、介護や病気による支出や、家賃や住宅ローンは考慮されていません。

例えば、介護施設の月額利用料は、社会福祉法人や自治体が運営する特別養護老人ホーム(特養)で平均約10万~15万円、主に民間企業が運営する有料老人ホームでは住宅型有料老人ホーム(生活支援サービス付きの高齢者向け居住施設)の平均月額利用料が約13.5万円、介護付き有料老人ホームでは約22.8万円とされています。
これらの費用には、居住費、食費、管理費、介護サービス費などが含まれますが、施設の種類や提供されるサービス内容、地域によって異なる場合があります。
出所:厚生労働省「介護報酬の算定構造」

また、医療費の自己負担増加も見過ごせない問題です。75歳以上の医療費の自己負担割合は、2022年10月から一定以上所得者は2割負担となり、今後も負担増が予想されています。

実際に老後資金の準備を検討する際は、これらも考慮して考える必要があります。

老後に必要な資金の実態

基本的な生活資金

総務省統計局が公表している「家計調査報告(2023年)」によると、65歳以上の高齢夫婦無職世帯の月々の支出は、月額23.7万円です。この支出には、食費、住居費、光熱・水道費など、基本的な生活費が含まれます。
この支出は、老後の生活を維持するために必要な金額であり、ゆとりある暮らしを送るための支出ではなく、一般的な生活水準を維持するための最低限の金額とされています。

出所:総務省統計局「家計調査報告(家計収支編)2023年(令和5年)平均結果の概要」

ゆとりある生活に必要な費用

生命保険文化センターの調査では、ゆとりある老後生活を送るために必要な追加費用について、基本生活費に加えて、月額14.8万円の追加支出が必要とされています。ゆとりある老後のためには、これらも必要な支出として考慮しておいた方がよいでしょう。
出所:生命保険文化センター「2022(令和4年)年度 生活保障に関する調査」

予備費と追加支出

老後資金では、上記の支出に加えて、予期せぬ支出への備えも重要です。特に考慮すべきなのが介護と医療の費用です。

介護には、在宅介護で月額平均7.5万円、施設介護では月額平均24.7万円もの費用が必要とされています。5年間の介護が必要になった場合、在宅でも450万円、施設入所となれば1,482万円という大きな金額になることを想定しておく必要があります。
出所:厚生労働省「令和5年度 介護給付費等実態統計の概況」


70歳から74歳の方の医療費は、医療機関での窓口負担が原則2割(現役並み所得者は3割)です。一方、75歳以上になると後期高齢者医療制度の対象となり、窓口負担は原則1割となります。入院時の追加費用には、入院時食事療養費(標準負担額:一般所得の場合1食490円)や差額ベッド代などが発生します。これらの費用が発生する一方で、住宅のバリアフリー化に関する支援制度として、介護保険による住宅改修費支給(上限20万円、支給額は9割)や、バリアフリーリフォーム減税などの制度が利用可能です。
出所:
・厚生労働省「後期高齢者の窓口負担割合の変更等(令和3年法律改正について)」
・福岡県医師国民健康保険組合「入院したときの食事代」


これらに加えて、30年という長期間での物価上昇の影響も無視できません。年率2%の物価上昇を想定した場合、約1,000万円の追加的な資金が必要となる試算もあります。

年金と実支出のギャップ

実際の収支バランス
2023年4月の年金額改定により、モデル世帯(夫が厚生年金40年、妻が国民年金40年加入)の標準的な年金額は、月額約19.6万円に設定されています。この内訳は、夫の老齢厚生年金が約13.7万円、夫婦それぞれの老齢基礎年金が約5.9万円です。この改定は、物価や賃金の変動に基づく年金額の調整ルールに従って行われました。
出所:厚生労働省「令和5年度の年金額改定について」

生命保険文化センターが実施した「生活保障に関する調査」(2022年度)によると、夫婦2人で老後生活を送るうえで必要と考える最低日常生活費は月額平均23.2万円とされています。一方で、ゆとりある老後生活を送るためには、さらに平均14.8万円の追加支出が必要と考えられており、合計で月額37.9万円が必要です。この結果、最低限の生活を支える収入だけでは、毎月約14.8万円の不足が生じる世帯が多いと推定されます。
この不足額を30年間(360ヵ月)分に換算すると、総額は約5,328万円(14.8万円 × 12ヵ月 × 30年)に達します。このような長期的な資金計画を立てることは、老後の生活設計において非常に重要です。さらに、物価上昇や医療費の増加などの要因も考慮する必要があります。

ライフスタイルによって異なる老後資金

老人ホームへの入居

老後の選択肢の一つとして、老人ホームへの入居を検討する方も多いでしょう。
しかし、施設の種類や提供されるサービス内容、立地によって、かかる費用には大きな差があります。
老人ホームの主な費用は以下のように分類されます。
  • 入居一時金(前払金):一部の施設では、入居時にまとまった一時金の支払いが求められることがあります。
  • 月額利用料:毎月の費用には、家賃、食費、管理費、介護サービス費などが含まれます。


実際の費用は施設ごとの料金体系やサービス内容、地域差によって異なるため、入居を検討する際には各施設の詳細な費用を直接確認することが重要です。また、老後の生活設計や資金計画を事前にしっかりと立てることで、安心した生活を送ることができるでしょう。

持ち家 or 賃貸の違い

住宅所有の有無によって、必要な老後資金は大きく異なります。総務省の家計調査によると、標準的な月額住居費は次のとおりです。

持ち家世帯:平均2.1万円
賃貸世帯:平均7.8万円


30年間の差額は約2,052万円(5.7万円×12ヵ月×30年)となります。
出所:総務省「家計調査年報 2023年版」

単身 or 夫婦 の違い

世帯構成によっても必要な資金は変わってきます。総務省の家計調査によれば、食費、住居費、光熱・水道費、被服費、保健・医療費、交通・通信費などを含む標準的な生活費は以下のとおりです。

単身世帯(65歳以上の無職世帯):月額平均15.8万円
夫婦世帯(高齢夫婦無職世帯):月額平均22.4万円


30年間の差額を比較すると、約2,376万円((22.4万円-15.8万円)×12ヵ月×30年)となります。この差額は、2人分の日常生活費や、夫婦での余暇活動費用などから生じています。
出所:総務省統計局「家計調査報告(家計収支編)2023年平均速報」

地域による違い

総務省の家計調査によれば、食費、住居費、光熱・水道費、被服費、保健・医療費、交通・通信費などを含む標準的な生活費は、地域によって次のような差があります。

東京都区部:月額平均26.3万円
地方都市:月額平均21.8万円


30年間の差額を比較すると、約1,620万円((26.3万円-21.8万円)×12ヵ月×30年)となります。この差額は、主に住居費や交通費の地域差から生じています。
出所:総務省統計局「家計調査報告(家計収支編)2023年平均速報」

前述の金融庁の報告書には、以下のような記述があります。

ライフスタイルが多様化する中では、個々人のニーズはさまざまであり、大学卒業、新卒採用、結婚・出産、住宅購入、定年まで一つの会社に勤め上げ、退職後は退職金と年金で収入を賄い、三世帯同居で老後生活を営むというこれまでの標準的なライフプランというものは、多くの者にとって今後はほとんどあてはまらないかもしれない。今後は自らがどのようなライフプランを想定するのか、そのライフプランに伴う収支や資産はどの程度になるのか、個々人は自分自身の状況を「見える化」した上で対応を考えていく必要があるといえる。

※金融審議会 市場ワーキング・グループ報告書「高齢社会における資産形成・管理」より抜粋


自身のライフスタイル健康状態など、さまざまな点を考慮して、老後の資金準備を進めていきましょう。

老後の資金不足を防ぐための具体策

現役時代からの計画的な資産形成

老後の資金不足を補うためには、資産運用などを通じ、計画的に資産を形成していくことが有効でしょう。具体的な運用プランを見てみましょう。

例えば、毎月10万円を年率4%で30年間投資した場合、総投資額3,600万円(10万円×12ヵ月×30年)は、30年後には約6,875万円に成長します。この金額は、老後の生活に必要な資金不足を十分にカバーできる水準です。同じ条件で運用期間が20年間の場合、総投資額2,400万円(10万円×12ヵ月×20年)は、20年後には約3,650万円まで成長します。

資産形成にあたっては、NISAやiDeCoなどの非課税制度を上手に活用するとよいでしょう。  

ご参考:老後資金、みんなはどうしている?

年代別の準備状況

金融広報中央委員会の「家計の金融行動に関する世論調査」によると、老後資金の準備状況は次のとおりです。

30代 約45%が準備を開始
40代 約62%が準備を開始
50代 約78%が準備を開始

出所:金融広報中央委員会「家計の金融行動に関する世論調査」2023年

人気の資産形成方法

同調査によると、老後資金の準備方法として人気が高いのは

定期預金・普通預金

68.4%

投資信託

42.3%

個人年金保険

35.7%

新NISA

28.9%


となっています。ただし、預貯金だけでは将来の資金準備として十分とはいえない可能性が高く、収益性の高い金融商品との組み合わせを検討する必要があるでしょう。

出所:金融広報中央委員会「2023年 家計の金融行動に関する世論調査[二人以上世帯調査]」

継続的な収入確保

現在、多くの高齢者が就業を継続しています。総務省の調査によれば、65-69歳の就業率は50.3%、70-74歳でも32.2%となっています。就業による収入は65-69歳で月額平均19.8万円、70-74歳でも月額平均15.6万円となっており、年金収入を補完する重要な収入源となっています。
出所:総務省「労働力調査(2022年平均)」

老後の資金不足に備えるためには、これらの対策を組み合わせた総合的なアプローチが効果的です。また、介護や医療費の備えとして、民間の保険などを補完的に活用することも一つの選択肢でしょう。また、これらの検討・対策を早期から開始し、定期的に計画を見直していくことも大切です。社会環境や経済状況は常に変化していくため、それに応じて柔軟に対応しましょう。

みずほ証券からの
ひとこと

老後資金は、現役時代から、無理のない範囲で少しずつ準備していくことが大切です。日々の生活を大切にしながら計画的に資産を形成することで、安心で充実した老後生活に備えましょう。


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