上場株式等の繰越控除とは
上場株式等の繰越控除とは、ある年度に発生した損失を翌年度以降に繰り越して、将来、所得から控除できる制度です。上場株式等の取引で損失が発生した場合にこの繰越控除を適用すると、翌年以降に最大3年間繰り越し、翌年以降の利益と損益通算できます。なお、繰越控除を適用するためには、譲渡損失が生じた年と繰り越す期間は毎年確定申告を行う必要があります。
損益通算については、以下の記事をご覧ください。
繰越控除を活用し、翌年以降の税額を減らせた例を見てみましょう。
例)2025年に500万円の損失が発生。翌年以降3年間に渡り、この損失を繰り越した場合(繰越控除)
※200万円×税率20.315%
この例では、2026年・2027年は利益が出ていても上場株式等に係る分離課税の納税額は0円となります。また2028年は、400万円の利益に対して損益通算後の利益が200万円に減額できるため、納税額は、本来の税額812,600円(400万円×税率20.315%)から、406,300円に減っています。
証券投資における繰越控除の対象商品と対象の口座
証券投資における繰越控除は、主に株式や投資信託などの譲渡所得に関連する損失に適用されます。ただし、すべての金融商品や口座内の損失を繰り越せるわけではありません。繰越控除の対象となる商品と証券口座は以下のとおりです。
繰越控除ができる金融商品
繰越控除ができる主な金融商品は、以下のとおりです。
繰越控除できる金融商品
繰越控除を行うために必要な手続き
繰越控除を受けるには、以下を満たす必要があります。
1. 確定申告が必須
特定口座(源泉徴収あり)を利用している場合でも、繰越控除を適用するには確定申告が必要です。確定申告の際には、証券会社が発行する「特定口座年間取引報告書」などを参考にできます。
2. 繰越控除を適用したい期間は、毎年確定申告を行う
3年間繰越控除を適用し続けたい場合は、譲渡損失が生じた年と繰り越す期間は毎年確定申告を行う必要があり、付表(上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除用)を添付しなければなりません。1年でも申告を忘れると、その時点で繰越控除の権利を失います。
確定申告については、以下の記事をご覧ください。
繰越控除に関する Q&A
Q1: 繰越期間の3年間のうち、一部の年に投資をしなかった場合はどうなりますか?
A1: 2024年に発生した損失を繰り越す場合、損失の繰越可能期間は2027年までです。投資をしなかった年があっても繰越可能期間は延長されません。例えば、2025年に投資をまったく行わなかった場合でも、その損失の繰越可能期間は2027年までです。また、繰越控除を2027年まで継続するためには、投資をしなかった年も含め、毎年確定申告を行う必要があります。一度でも申告をしない年があった場合、損失の繰越控除を続けられません。
Q2: 損失が出た年に確定申告をしなかった場合、後から繰越控除を適用できますか?
A2:申告要件を満たしていれば、確定申告の時期を逃しても期限後申告や更正の請求によって後から繰越控除の手続きをすることは可能です。ただし、上場株式等の譲渡損失の繰越控除は、損失が発生した年から3年間、連続して確定申告書に付表を添付して申告することが条件です。1年でも申告を欠かすと、その時点で残っていた繰越損失は消滅しますので、毎年必ず申告してください。
Q3: 配当金と繰越損失は相殺できますか?
A3: はい、上場株式等の配当所得を申告分離課税で申告する場合、繰越損失と相殺できます。ただし、配当金を総合課税で申告している場合(配当控除を適用している場合)は、損益通算できません。繰越損失がある場合は、金額にもよりますが配当も申告分離課税を選択する方が良いケースが多いでしょう。
記事監修者
岡和恵岡和恵税理士事務所
大学卒業後、2年間の教職を経てシステム会社に入社。
システム開発部門でERP導入と会計コンサル、経理部門での財務および税務会計を経験。
税理士、CFPなどを取得。2019年より税理士事務所を開業。
会計・税務の豊富な実務経験と知見を生かし、税理士業務のほか監修者としても活躍中。